アルツハイマー型認知症の新薬:レカネマブ
アルツハイマー型認知症の新薬
「レカネマブ」
新しいアルツハイマー病治療薬であるレカネマブ(レケンビ®)の製造販売が承認され、令和5年12月20日に発売され、さらに令和6年11月26日にはドナネマブ(ケサンラ)も発売されました。
レカネマブやドナネマブは、アルツハイマー型認知症の新しい治療薬で、病気の原因とされる「アミロイドβ」タンパク質を標的にした抗体薬です。アルツハイマー型認知症は、脳にアミロイドβが蓄積することが主な原因の一つと考えられていますが、これらの薬剤はこのアミロイドβを除去することで、病気の進行を遅らせることを目的としています。
薬が作用する仕組み
レカネマブやドナネマブは、脳内に蓄積した「アミロイドβ」に結合し、その蓄積を減らす働きがあります。これによって、アルツハイマー型認知症の進行を抑えることが期待されています。特に、軽度から中等度のアルツハイマー型認知症に対して使用されることが多く、記憶力や認知機能の低下を遅らせる効果が報告されています。
臨床試験と効果
レカネマブやドナネマブは臨床試験で、アミロイドβを減少させる効果が確認され、症状の進行を約20〜30%程度遅らせることが示されています。特に、アルツハイマー型認知症の早期段階での使用が有効とされており、認知機能や日常生活動作が改善する可能性があるとされています。
適応条件
軽度認知障害(MCI)または軽度のアルツハイマー型認知症
レカネマブやドナネマブは、アルツハイマー型認知症の初期段階(軽度認知障害または軽度認知症)にある患者さんを対象としています。この段階での治療が最も効果的とされています。認知機能がまだある程度維持されている初期の段階で、病気の進行を抑制することを目的としています。
脳内にアミロイドβの蓄積が確認されていること
レカネマブやドナネマブは、脳内にアミロイドβが蓄積している患者さんに対してのみ使用されます。アミロイドβはアルツハイマー型認知症の原因の一つとされており、レカネマブやドナネマブはこの蓄積をターゲットにします。そのため、治療前にPETスキャンや脳脊髄液検査などでアミロイドβの蓄積が確認される必要があります。
年齢や体力などの全体的な健康状態が治療に適していること
レカネマブやドナネマブを使用する場合、患者さんの全体的な健康状態も考慮されます。特に、脳の状態を定期的にモニタリングする必要があり、副作用のリスクを最小限に抑えるため、心血管系や腎機能などが安定していることが求められます。
副作用やリスクに対する理解と管理ができること
レカネマブやドナネマブの使用には、ARIA(アミロイド関連画像異常)と呼ばれる副作用のリスクがあるため、定期的なMRIなどによる脳の画像検査を受けることができる環境が整っていることが重要です。また、治療に伴うリスクや副作用について十分に理解し、治療を継続できる患者さんが対象となります。
適応外となる場合
アルツハイマー型認知症の進行が中等度以上に進んでいる場合や、脳内にアミロイドβの蓄積が確認されない場合は、レカネマブやドナネマブの適応外となります。また、他の重篤な疾患や持病がある場合も、適応が難しくなることがあります。
治療までの流れ
1. 診察・認知機能の評価
まず問診を行い、物忘れの経過や生活上の変化について詳しく伺います。
認知機能の状態を確認するため、MMSE(Mini-Mental State Examination)などのスクリーニングテストを実施し、初期段階の認知機能低下が疑われる場合は、精密検査へ進みます。
2. 検査による治療適応の判断
抗アミロイドβ抗体薬の投与を行うためには、複数の検査によって治療の安全性と有効性を確認する必要があります。
頭部MRI検査
脳内の構造や血管の状態を確認します。過去の出血や病変がある場合は、副作用のリスクが高まるため、治療を見送ることがあります。
CDR(Clinical Dementia Rating:臨床的認知症尺度)
本人およびご家族への聞き取りを行い、認知症の重症度を評価します。
軽度の場合のみ、抗アミロイドβ抗体薬の対象となります。
髄液検査 または アミロイドPET検査
脳内にアミロイドβの蓄積があるかを確認する、もっとも重要な検査です。
髄液検査は腰から針を刺して髄液を採取し、アミロイドβの濃度を測定します。結果が出るまで7~10日間かかります。
アミロイドPET検査は、薬剤を注射後に頭部を撮影し、画像でアミロイドβの沈着を確認します。
ただしPET検査は限られた施設でのみ実施可能であり、当院では主に髄液検査を行っています。
当院での検査体制と治療の流れ
当院では、上記3つの検査を1日で完結できる体制を整えています。(検査予約をとるため、まず初めに外来診療を受けていただく必要があります。)
午前中の来院から午後の検査終了まで、おおむね半日で結果が揃うようスケジュールを組んでおり、患者さんやご家族の負担をできる限り軽減しています。
検査の結果、抗アミロイドβ抗体薬が適応と判断された場合には、2週間もしくは4週間に1回の点滴治療を行います。
点滴の前には必ず医師が診察を行い、体調に問題がないかを確認します。
治療開始後も定期的にMRI検査を行い、副作用や脳の変化を慎重にモニタリングしています。
安全性と継続的なサポート
抗アミロイドβ抗体薬は有効性が期待される一方で、脳浮腫や小出血などの副作用が報告されています。
当院では、これらのリスクを最小限に抑えるため、治療中は主治医・看護師・放射線技師が連携し、定期的な検査と経過観察を行っています。
また、治療は継続的な通院とご家族の協力が必要なため、医師だけでなく、看護師・検査技師・医療ソーシャルワーカーが一体となり、患者さんの生活やご家族のサポート体制にも配慮した治療を行っています。



