実際に抗アミロイドβ抗体薬を投与した患者さんの例
実際に抗アミロイドβ抗体薬を
投与した患者さんの例
70代女性 Aさん
2年前から物忘れが目立つようになったのに夫が気づいた。普段は自宅で自営業の夫を手伝っていたが、翌日の予定を忘れてしまう、お金の計算を間違えるといったことが目立ってきたため、夫はAさんに受診を勧めたがAさんは受診するのを嫌がっていた。そこで、夫から話を聞いていた近所に住む娘が、Aさんを連れて近くの内科医院を受診した。そこで認知症の簡単なテストをした結果、初期の認知症が疑われた。最新の認知症治療薬の治療を受けたいという希望もあり、当科外来へ紹介となった。
診察時、患者さんの身なりはきちんとされており、お話をしても非常に礼儀正しく特に問題はない印象を受けた。しかし、MMSE(Mini-Mental State Examination)という簡単な認知症スクリーニングテストを受けると、短期記憶障害や計算能力の低下が見られ、ごく初期の認知症を疑う所見だった。
本人・ご家族に認知症治療薬の説明、治療適応を決めるための検査についての説明を行い、まずは抗アミロイドβ抗体薬の適応を確認するための検査を行った。必要な検査は下記の3つである。
頭部MRI検査
抗アミロイドβ抗体薬は脳内のみでなく、脳内の血管に付着したアミロイドβも除去する。そのため、投与開始後は脳浮腫・脳出血(無症候性の軽度のものがほとんど)の副作用が生じやすい(5%程度)。古い脳出血が多数あると、副作用のリスクが上昇するため、治療を行うことが出来ない。
CD-R(Clinical Dementia Rating;臨床的認知症尺度)
認知症の重症度を評価するための評価尺度。認知機能や生活状況などに関する6つの項目を本人、家族のそれぞれから問診を行い評価していく評価結果は5段階に分類されており、軽症の場合に抗アミロイドβ抗体薬の適応となる。
髄液検査もしくはアミロイドPET
これが治療適応を決める最も重要な検査。取り除くべきアミロイドβが実際に脳内にあるかを確認する。
- 髄液検査では腰の背骨から針を刺して髄液を採取する。所要時間は10-15分程度、検査後は1時間の安静が必要。
- アミロイドPETは薬剤を注射後に頭部を撮影、針を刺す痛みはないが、金額が3割負担だと75000円になる。画像でアミロイドβの蓄積の有無を確認する。
治療を行うには、髄液検査、アミロイドPETのいずれかの検査が陽性である必要がある。アミロイドPETは当院にないため、髄液検査を行っている。
当院では3つの検査を1日で行えるように予定を組んでいる。朝9時前に受診していただき、午後2-3時には帰宅できる。
Aさんは3つの検査行い、抗アミロイドβ抗体薬の適応あり、との結果だったため、レカネマブによる治療を選択した。
レカネマブは2週間に1回の点滴治療が必要なため、Aさんは夫と一緒に2週間に1回、1時間の点滴を行うために当院へ通院している。点滴をする際は、主治医が最初に診察して体調が問題ないことを確認後、1時間の点滴を行う。治療開始後は、定期的に頭部MRI検査を行い、異常がないことを逐次確認する。
治療を開始してから半年後、1年後に認知機能検査を行ったが、MMSE、CD-Rでも点数の悪化はなく、今もAさんは夫の仕事を手伝っている。



