
心臓血管外科
ドクターインタビュー

スポーツを通じて医師を志す
私は栃木県小山市で生まれ育ちました。学生時代は中学からずっとバドミントン部に所属し、練習に励んでいました。振り返ると、バドミントンを続けていなければ医師にはならなかっただろうと思います。高校時代にジュニア日本代表としてアジアキャンプに派遣された際、香港で受けたスポーツ医学の講義に強い感銘を受けたことが、医師を志す大きな契機となりました。その後、筑波大学バドミントン部で事前練習をさせてもらった経験も相まって、筑波大学医学部を受験する決意に至ったのです。東日本医学生大会ではシングルスで5年連続優勝を果たし、スポーツを通じて得た経験は、自分の進路選択に大きく影響を与えました。
当初は他の外科を志望していましたが、筑波大学のスーパーローテート制度の中で心臓血管外科に出会いました。手術によって患者さんの状態が劇的に改善する姿を目の当たりにし、そのダイナミックさに心を動かされました。当時は心臓血管外科の治療成績が飛躍的に向上していく時代であり、その変化と将来性にも強く惹かれ、心臓血管外科を専門に選ぶことを決意しました。

患者の回復と研修環境が、心臓血管外科を選ぶ決め手
当時の主流は人工心肺を用いた弁膜症手術で、弁置換は機械弁が中心でした。生体弁も存在していましたが、劣化による再手術が早期に必要となるケースが多く、まだ十分な成績とは言えませんでした。そうした制約がある一方で、手術を経て患者さんが目に見えて回復していく姿は大きなやりがいとなり、この分野に進む決心を後押ししました。
筑波大学の心臓血管外科は当時、開心術の成績が向上し、全体として盛り上がりを見せていました。そうした活気ある環境の中で研修を受けられたことも、自分にとって大きな刺激となり、この道を選んだ大きな要因になったと感じています。
標準治療を最優先に、安全を重視
私は心臓血管外科の診療に携わる中で、常に「安全第一」を信条としています。最新の技術を積極的に取り入れることは大切ですが、患者さんのリスクを最小限に抑え、確実に良い成績を残すことが最も重要です。心臓の手術成績は命に直結するため、流行や新奇性に流されるのではなく、現代の標準治療をしっかりと提供することを第一に考えています。
医療の世界では、最先端と呼ばれる治療が必ずしも最良とは限りません。一時的に盛んに行われても、後に効果が乏しいと判明し、姿を消していく治療も少なくありません。私自身、小児喘息のために大学病院に通院していた経験がありますが、当時受けていた治療はその後に有効性が否定されました。治療のために症状が悪化して苦しくなることもありましたが、医療には常にそうした側面があるのだと身をもって感じています。その経験が、確かな根拠に基づいた治療を重視することにつながっているのかも知れません。

常に合併症リスクの低減に努める
心臓血管外科の手術技術は大きく進歩し、成績も安定してきています。しかし、それで満足するのではなく、さらに合併症のリスクを減らし、成績をより良くする努力を続けていく必要があります。たとえば冠動脈バイパス術では、世の流れに多少反しているかも知れませんが、原則として人工心肺を使用して心臓を止めた状態で行う方法を標準としています。私自身、心拍動下で行うオフポンプ手術を主として行っていた時期もありましたが、機器の不具合で使用できないことがあった際に見直しました。そのため、現在は人工心肺を使った方法を基本に据えつつ、患者さんの状態によってはオフポンプを選択する場合もあります。どの術式を選んでも、常に「安全性」を最優先に判断しています。

施設によっては先端医療の研究や実践が求められる場もありますが、私たちのような地域の中核病院では、科学的に効果が証明された治療を中心に安心して受けていただける医療を提供できることが強みです。新しいものを追い求めるだけでなく、確かな根拠のある標準治療を積み重ねていくこと。それが患者さんにとって最も信頼できる医療につながると考えています。

県央の中核施設として心臓血管手術に取り組む
私は2024年から当院で診療に携わっています。茨城県では心臓血管外科手術の集約化が進められ、当院が県央地区の中核を担うことになりました。その結果、手術症例は大幅に増加し、多くの患者さんを受け入れる体制が整いつつあります。
現在は数か月先まで手術枠がほぼ埋まっている状況ですが、より多くの患者さんに対応できるよう、設備や人員の拡充を進めています。内科と連携して行うカテーテル治療(TAVI)の症例数も急増しています。今後の体制整備により、さらに多くの患者さんに安全に治療を届けられるよう取り組んでいます。
また、手術件数を増やすには外科医や麻酔科医の確保も欠かせません。心臓血管外科医は全国的にも不足しており、若手医師の確保と育成と参加が大きな課題となっています。当院でも今後は外科医を増やし、緊急手術にも迅速に対応できる体制を整えることが重要です。
一方で、低侵襲手術であるMICS(小切開手術)やロボット手術についても安全に配慮しつつ、開始に向けて準備しているところです。


内科・外科の連携を活かし、中立な治療を提案
当院の大きな特徴のひとつは、内科と外科の連携が非常に良好であることです。毎週のカンファレンスや抄読会(最新の医学論文を読み、知識を共有する勉強会)を一緒に行っており、日常的に意見交換が活発に行われています。外科に相談に来ていただいた場合でも、必要に応じて内科と連携して診療を進めますし、逆に内科に紹介された場合でも必要に応じて速やかな手術治療に対応いたします。
つまり、「外科だから手術になる」「内科だからカテーテル治療になる」といった固定的な方針ではなく、患者さん一人ひとりの病状に最もふさわしい治療を選択できる体制が整っていると言えます。私たちは常に「患者さんにとっての最善の治療法は何か」を第一に考えて診療にあたっていますので、どちらの診療科へご紹介いただいても、安心してお任せいただければと思います。

確かな技術とやりがいを求める就職希望者へ
心臓血管外科医は今後も社会にとって欠かすことのできない存在であると思います。しかし現状では医師不足は極めて深刻であり、近い将来誰もが当たり前のように心臓手術を受けられる時代ではなくなると考えられます。それだけに、この領域で活躍することには確かな意義とやりがいがあります。手術を通じて患者さんやご家族に深く感謝されることは多く、涙ながらにお礼を言われる場面も少なくありません。その瞬間こそが、この仕事を続けていく最大の原動力になっています。
心臓血管外科の醍醐味は、患者さんの命に直接かかわり、確実に良くしていくことにあります。その点に共感できる方にこそ、ぜひこの道を目指していただきたいと考えています。
指導にあたっては、ときに厳しく指摘することもあるだろうと思いますが、それは若い先生が一人前の心臓血管外科医として独り立ちするために必要と考えるからです。私自身も過去に単身赴任の生活や様々な苦労を経験し、強いストレスから体調を崩したことがありました。その経験から、今はプライベートも大切にし、仕事と生活のバランスを保つことを心がけています。
当院ではまだMICSやロボットを用いた心臓手術は導入していませんが、準備を進めている段階にあります。必要に応じて、関連する筑波大学での研修や、国内の先進施設での研修や見学も可能です。確実に実力を積み上げていくことも、新しい技術を学ぶことも、どちらも大切にしたいと考えています。

職名 | 循環器センター長/主任部長 |
---|---|
出身大学(卒業年) | 筑波大学 (平成6年) |
日本外科学会 外科専門医・指導医
日本胸部外科学会 認定医・指導医
心臓血管外科専門医認定機構 専門医・修練指導者
難病指定医
身体障害者福祉法 指定医
日本スポーツ協会 スポーツ医
バドミントン日本代表ドクター